生活福祉文化研究所

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    アルベルゴ・ディフーゾ Albergo Diffusoに関する考察

    プロローグ

    Albergo Diffuso (以下ADi)は、Albergo(宿)、Diffuso(分散)の意味から「分散型ホテル」と訳されている。イタリアで始まった事業であるが、日本でもADI(協会)から認証されたものやスタートアップ段階の事例もあり、加速度的に注目されつつあると言える。近年、日本で増加する空き家への対処が社会課題の一つとしてクローズアップされていることに関連して、ADiは、空き家の有効活用、新たな観光のあり方、地方創生、SDGsの視点のまちづくり、など多様なアプローチにより語られている。
     ADiは、対象地の自然・歴史・文化等の地域資源、事業家(資金+コーディネート)の存在、そして継続のためのマネジメント、さらにADT(アルベルゴディフーゾ・タウン)の場合には、行政の積極的取組み、地元住民との協働などが上手く展開する鍵となると考える。
     2006年にADIが設立され、2021年までにイタリアで100カ所以上、EUで約150箇所をアルベルゴディフーゾとして認定している。
    文献*1によれば、イタリアの先行事例も必ずしも全てが揃って好調なわけでもなく、この事業そのものに対する評価も賛否両論あるようだ。日本で実際に計画推進しようとすれば、建築基準法や旅館業法など法的な課題も存在し、乗り越えるハードルもある。
     一方で、必ずしもADiを標榜すものでなくても、日本まちやど協会*2のように地域資源のネットワーク化をはかり、地域社会の付加価値を上げていくことを促す企画は、目指す方向性としては一致していると言えよう。
    以上のことからADiの普及動向をポジティブに捉え、それにまつわる多様な事象を模索する中で、これまで視察してきた調査報告をもとにADiを多角的に考察してみたい。

    事例1 イタリア Casa delle Favole

    2019年11月に建築学会の研究会*3のメンバーでイタリアに調査に行った際、Adiの事例として、エミリア・ロマーニャ州のCasa delle Favoleを訪問した。
    中世の風情が残る。平地が少ない山地のなかで、農業を生業とする貧しい集落:ビアチェンツァにある。2010年にパオロ・マイナルディ氏が開業した

    パオロ・マイナルディ氏

    パオロ氏は、新聞でADiの方式を知り、取組む。
    産業構造の変化で1960年~1970年に荒廃してしまった祖父母の村で2010年に開業した。
    州の法律により、歴史のある村でなければならないこと、最低7軒以上必要、すべての施設が半径200mの範囲内であることが規定されている。

    先ず、かつて村に住んでいた人々やその子孫を探し出し、中にはパリまで出かけ、現金を持っていき買い取った家もある。

    • 建設業を営むため、自分たちで改修し、 7軒の改修に5年近くかかった。
    • 建物は石造り (かつては、1階が家畜などのスペース、2階が人の居住スペース)
    • 調査当時、宿泊棟など11軒の家が半径200mの中に分散し、最大45名の宿泊が可能。
    • 建物改修に関する国の基準に適合させたため費用の15%の補助を受けた。

    レセプションがある棟

    • 利用客は70%がイタリア人、次にフランス人で、その多くが親が昔ここに住んでいたという理由で訪れる。
    • 週末はたいてい満室。7,8月は子連れ利用が多い。「自然豊かな静かな田舎の生活」が目当てで来る。近くの1,500m2の土地を公園にしたり、住棟の間に畑を作ったりした。また遊歩道も整備している。流行中のマウンテンバイクもオーダーした。

    宿泊棟;特徴のあるファサード

    住棟入り口にネームプレート

    ADi の看板

    客室は、1~2名用の部屋から、6~7名で宿泊できる部屋までバリエーションがある。

    • 利用客の滞在期間は1,2泊から数週間の長期まで多様。交通手段は自家用車。
    • 1棟貸しの長期滞在用は、現代的機能のバスルーム、キッチン、洗濯機の設備がある。

    落ち着いたインテリアのベッドルーム

    冬季用のヒーター付

    トイレは機能的に改修

     夕食は、隣接する地元のレストランで食べる。郷土料理がメインで、この地方特産の生ハムやニョッキ、肉料理などを提供。朝食は、バイキング形式。

    特産の生ハムを何種類か盛付け

    ニョッキや肉料理も地方色豊か

    運営者;パオロ・マイナルディ氏へのインタビュー

    各家にあった伝統的ピザ釜
    • 現在、エミリア・ロマーニャ州にはADiが3ヶ所ある。
    • 過疎地では、そこから出たいと思う人が多く、地域の継続性そのものに課題をもっている。自分は村を再生させたい気持ちが強く、ADi運営は儲けよりも自分の意思によるものである。
    • 経営は厳しいが、今の時点で運営が成り立っているのは、自身が建設業で改修ができること、家族だけで経営しており、息子が婚約者とホテルを運営しているためである。
    • 夏の2ヶ月間と週末以外は客が少なく、周辺の店は12月は閉めるが、自分はイベントをしたりして、常に開けている。
    • ADIは宣伝をしてくれない。自分で広報しており、ここの魅力は自然が残っていることで食事が売りではない。都会の人は田舎を求めて長期滞在するし、夏はリピーターが多い。
    • ADiに関する条例は、この州では厳しいが海沿いの方はもっとゆるい。
    • 自分が家を改修してきれいにしたため、周りの家の不動産価値が上がるという良い影響があった。次第に観光客も増えているが、ホテル料金は上げていない。
    • パオロ氏は、ADi全体として60名が宿泊できる規模にしたいという構想をもつ。それは、観光バスの収容人数であり、バスの単位で宿泊受け入れができれば、経営の安定につながると考えている。
    • パオロ氏の話から、自身の村の存続にかける熱意が伝わってきた。実際、国所有の道路を整備したり、村全体の景観のために買えなかった家も綺麗にしており、自然環境を魅力として大切にし、ADiを運営することで観光客を呼び込み、村の存続に尽力している。

    *1 『世界の地方創生』松永安光・徳田光弘編著  学芸出版社2017
    *2 一般社団法人日本まちやど協会のHPによれば、「まちやど」とは、まちを一つの宿と見立て宿泊施設と地域の日常をネットワークさせ、まちぐるみで宿泊客をもてなすことで地域価値を向上していく事業である。
    *3 「利用縁」がつなぐ福祉起点型共生コミュニティの拠点のあり方に関する包括的研究

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