生活福祉文化研究所

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    清島アパート視察 (大分県別府市)

    清島アパートは、別府市にある元下宿のアパートで、NPO法人BEPPU PPROJECTが、アーティストの活動支援として維持運営している。
    別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」のプログラムの一つとして、「わくわく混浴アパートメント」を開催し、その時に全国から様々なジャンルのアーティストが集まって、滞在制作・展示を行ったことが始まりである。

    2023年12月現在、居住者は8人。そのうち2人は福岡との2拠点居住。家賃は1万円。短期利用は1日1000円である。

    主建物は2階建てのアパートで、1階が制作アトリエ、2階が住居。全て6畳の広さ。各入居者は、1,2階にそれぞれの部屋を持つ。

    1階の玄関を入ると共有室(管理人室と書いてある)があり、そこでは「清島Tシャツ」の販売を行っている。訪問したら呼び鈴を押してくださいと言われたが、通路の横のカウンターの上にある昔ながらの押し鈴であった。玄関ドア横の壁に各人の郵便受け(A4ファイルボックス)がオープンな形で設置してある。その横に、生ごみ捨て当番のカードが下げてあり、入居者が順番に行う。廊下に共用洗濯機があって、洗濯物は居室に干している。
    1階の勝手口のドア向こうに短期滞在の人の部屋が2室あって、そこの出入りは外から自由にできる。

    2階は、原則外部者立ち入り禁止であるが、共用室を見せていただいた。ソファのあるリビングスペースとキッチン・冷蔵庫があって、そこで調理を行う。調味料は共用で、その代金はアートフェスティバルの入場料などで賄う。各人が乾物や買い置き食品を入れるボックスが積み重ねてある。
    このリビングが交流の場となっており、以前、アパートに住んでいた人が訪ねてきて、皆で飲み会をすることもある。風呂はなく、近くの温泉に1回100円で入る。

    入居者の公募が毎年1月頃に始まり、応募すると審査を受ける。
    審査内容は、アパート周辺住民とBEPPU PROJECTのスタッフを対象に自己紹介と自己アピールを行う。審査するスタッフの話では、別府という街に関して何らかのこだわりを持っていることも求めている。入居者の話では、質問のなかに「これまで野宿をしたことがありますか?」と聞かれた。そのくらい夏は暑くて風が通らず、冬は寒くて辛い住環境である。エアコンがあるのは共用室のみ。どちらかと言えば夏の暑さが耐えられない。
    入居は4月に始まり、1年契約で、毎年更新するシステム。義務としては9月に開催されるArt Fair Beppu 2023に出展すること。年度末に1年間、どのような制作活動を行ってきたかの報告会で発表することである。以前は、定期的な居住者ミーティングを行っていたが、現在はしていない。
    一番長く住んでいた人は13年。その他の人も、このアパートは出るが別府に住み続けている人は多い。運営者の話では、別府市の移住促進とも連携している。 清島アパートに滞在して制作する魅力は、1)制作の場:アトリエが持てる。2)家賃が安い。3)別府はアートイベントが多く、出展の機会がある。4)アーティストの人脈ができる。5)温泉に毎日入れる。


    訪問日に案内してくれた2人は、同じ大学出身を卒業したばかりの1年目の若者。徳島出身と大分出身。

    8つのアトリエを見せていただいた。

    • 最近、個展を終えたという現代アート作家の部屋は作品が立てかけてあった。
    • サウンドインスタレーションの人の部屋は、スピーカーが真ん中にあり、案内者が操作すると音楽が流れ始めた。ハンモックが吊り下げてあって、そこで音楽を聞くのだろうか?この方は、高梨麻梨香で、「芸術拠点ちくごAIR評議委員会」の選考を経て福岡県令和4年度「新進気鋭の芸術家育成事業」に選ばれた秋田市出身の27歳。
    • 案内人の一人はコンピューターグラフィックで絵を描いており、居室のコンピューターで製作するため、アトリエは作品展示のギャラリーとして使っている。
    • もう一人の案内人は、天井の高さまで届くようなオブジェを制作中で、材料はプラスチックの上に発砲スチロールの粉末をスプレーし、その上にキッチンペーパーで覆うというものである。製作途中でそのままにしておける場所があることが利点。
    • 視察中に荷物を取りに戻った女装した男性は、東京ティスティニーランドという一人芝居をする人。恰好からして、街でも目立ち有名だそうで、仕事のオーダーも多いそうである。

    視察を通して、BEPPU PROJECTの趣旨に沿ったアーティストをサポートする場であることが理解でき、移住促進のための体験入居の役割も果たしている。大きな視点では、別府の街をアートで特徴付けるために、街にアーティストを増やす一つの手段でもある。
    アートと言っても多様であることが確認できた。現在の入居者の作品を見ると、いわゆるモダンアートの絵画を描いている人は一人だけで、一人芝居、音楽、写真やCGなどジャンル お幅は広い。
    創造活動をする人たちの価値観に基づき、各人が優先順位を決めて暮らしているようであるが、仲間意識を醸成しやすい環境である。
    アートによるまちづくりにとって、このような居住と制作の場を提供し、仲間づくりの促進と作品発表の機会を儲ける仕組みは、他所でも応用できる良い仕組みである。そして、行政と協働するNPOの運営で継続的に行われていくことが、まちづくりとしての成果をもたらすのであろう。

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